ぼくのマンガ人生
手塚 治虫 / 岩波書店
満足度:★★★★★
マンガの神様・手塚治虫があちこちで講演した記録(1986~88)をまとめた一冊。氏の没後8年目に刊行された。
「ぼくのマンガは大阪大空襲と八月一五日が原点だ」
とある通り、手塚治虫のマンガ世界が、先の戦争体験が色濃く根付いていることを実感する。大空襲を受けたときの模様を詳細に語っているが、まさにB29の焼夷弾の雨をかいくぐって逃げるという、九死に一生を得る体験。
そして8月15日、大阪の阪急百貨店のホールにシャンデリアの明かりがともっている。夜は絶対に電燈を消さねばいけなかったのに。それを見て手塚青年は思う、
「ああ、生きていてよかった」。
「ほんとうにうれしかった。ぼくの人生の中で最高の体験でした。」
「それがこの四〇年間、ぼくのマンガを描く支えになっています。」
「アドルフに告ぐ」「火の鳥」などが生れた背景は、ああそういうことだったのか、と分かる。
また、稀有なストーリーテリングと作画の才能が生まれた過程も見て取ることができる。素晴らしい担任の先生、科学の得意な親友、芯の強い母の存在・・・。
講演録なのでもともと読みやすいのだが、簡単な言葉の羅列と思いきや、哲学的なものも多々混じっていて、いかに幅広く思考の引き出しを持っていた人かが分かる。「天才」と片付けてしまうには失礼なくらい、いろいろ勉強して、出合った人々との交流を大事にし、努力を続けていたのだ。
蛇足だが、8年ほど前?宝塚の
手塚治虫記念館に一人で行ってみたことがある。子どもの頃に描いたという昆虫の絵の上手さにびっくり。近くには本家本元の宝塚劇場があり、手塚少年もよく観に行って、その影響が「リボンの騎士」などに表れていると聞いて、なるほどと思った覚えがある。
手塚プロダクションのHPもかわいくてお勧めです。